熱い心とまぶしすぎる輝き――
『レガッタ!』『きみはジョッキー』『レーシング少女』を通して私が感じたこと
<3> レーシング少女 編

この本は究極です。
 
 これまで色々な物語を読みました。気持ちがふわっとやわらぐような物語もあれば、カーッと熱くなるものもありました。そのうち、熱くなる小説の筆頭は、これまでは夢枕獏先生の『餓狼伝』だったのですが、それを上回る熱さです。
 
 私自身、カーッとなりやすい精神的土壌が出来上がっていたこともありますが、それにしてもこの小説は非常に熱いです。そして私の中でモヤモヤしていたものを焼き尽くし、最高の読後感を与えてくれました。
 
 なんといっても、この数行を書いただけで熱さがよみがえってきて、ほとんど自分をコントロールできません。そのため今回はきわめて断片的な、もはや読書感想文ですらない、まさに感情の断片のようなものになってしまいますが、それでも書かずにはいられません。何とか、皆様にも読んでいただきたいものです。
 
 
 
 努力型と天才肌の、対照的な 女子レーサーの物語
 第6回ジャイブ小説大賞入選作

 こんな世界があったのかと、胸が高鳴りました。
 ―――あさのあつこ(選評より)

知られざる男女混合競技「ミニバイクレース」に賭ける、
高校生レーサーたちの、熱い日々


悠真は勝気な16歳。
幼い頃からチャンピオンの夢を追い、
努力を重ねる女子高生レーサーだ。
負け知らずの彼女の前に現れたのは
天才肌の美少女レーサー・幸佳。
ライバルの、華麗でアグレッシブな奔りに打ちのめされ、
悠真は次第に自信を失って・・・・・・。

男女混合のミニバイク競技で、己のすべてを賭け、
激しく争う対照的な女子ふたりと仲間との、
騒がしく、ときに苦いレースの日々をあざやかに描いた、
青春スポーツ小説。
 
 
 
 と、ポプラ社の公式紹介ページから丸ごと引用してしまいましたが、自分の言葉で書こうとするとこんなテキストを作成していられないくらいテンションが上がってしまうので、何とか勘弁してください。
 
 以下、自分がいいなと思ったことをできるだけ少ない言葉で書きます。
 
 
 主人公「悠真」の一途なところ:
 
 これは『勝気』と一言では収まらないぐらいの熱さを持っています。とにかくバイクが好きで、夢は世界選手権ライダー。そのために高校に行かなくてもいいと言い切ってしまうくらい夢にまっしぐらなんです(結局、両親に説得されて高校には通っている)。そして、それゆえ「女の子なのに」という色眼鏡で見るマスコミは大嫌いで、特に一度頭の悪そうな芸能人から下衆の極みな質問をされて「うっさい!」と激怒して以来、そういった取材には一切応えないことにしている……というストイックぶりです。
 
 これだ、と思いました。3年前(この本を買った頃)はともかく、今なら私もそう思います。男子と女子が同じステージで戦うのなら、それはもはや同じレーサーであり、男だからとか女だからとか、そういうのは関係ないはずです。それを、実際にレーサーをやっている彼女から、ものすごく感情的に言ってくれたことは、本当に衝撃的でした。そして、なぜかうれしく思いました。
 
 「そうだ、おれは、間違ってないんだ!」
 
 こうして全身全霊をかけて、この物語に取り組んだのです。
 
 
 バイクレースの何たるかをド素人でも理解できる:
 
 私は昔から四輪派で、バイクの免許も持っていなければレースを観戦したこともありません。『こち亀』の影響で多少は知っていますが、ほぼド素人と言ってもいいでしょう。
 
 そんな私にも理解できるくらい、レースシーンの描写がすばらしいです。当たり前な話なんですが、四輪のレースとはぜんぜん物理的な動きが違います。そのため体感としては、何をどうすればこうなるのか? よくわからないながら――あるいはそれゆえに、こんなスピードで走るレーサーは無条件に尊敬に値する。そう思ったのです。
 
 それと同時に、アクシデントがあった時は四輪よりもずっと危険なものだと思いました。四輪のレースも危ないことは変わりありませんが、二輪の方は転倒することイコール放り出される、ですからね。本当に、命がけでやっているんだなと言う感じです。私はその世界を体験することはできませんが、そういう緊張感、ギリギリの駆け引き、手に汗握る熱さは十二分に分かりました。クダラナイ質問をされて「うっさい!」と激怒する悠真の気持ちもわかります。そんなことを言うヤローがいたら、私もスナップオンで思い切り殴りつけてやりたいところです。
 
 
 友達でライバルで幼馴染たちとの情熱的な日々:
 
 悠真は男女混合のレースの中でも一番速い選手でした。同じファクトリーで幼馴染の久真(男子)ともども「悠久ツインズ」なんて愛称をつけられ、人気・実力ともトップを走っていたのですが、そこに関西から現れたレーサー『岩代幸佳』。普段はとってもおとなしいのに、レースになると次元の違う走りで悠真を圧倒。しかもレースだけやってまた関西に帰るのかと思ったらなぜか悠真の学校に転校してきちゃいます。
 
 ストイックが服を着ているような悠真は、彼女を『岩代幸佳』とフルネームで呼び、打ち解けようとしません(ライバルだから)。でも悠久ツインズの片割れである久真は彼女と割合積極的に話しています。それをとがめようとするのは、同じレースに参戦するライバルだからなのか、それとももっと感情的なものなのか? そのあたりが複雑に絡み合い、ぶつかり合い、物語は進んでいきます。そう、ガッチガチのバイク小説という骨格はあるものの、そこに十代の若い男女らしい心の交流もあるのです。
 
 
 
 
 まだまだ語る言葉には事欠きませんが、まずはこのくらいにしておきましょう。このくらいが限界、と言うべきかもしれませんが。
 
 そんなわけで、二輪の免許を取ろう! とはいえませんが(彼女が6歳の時にバイクレースを見てバイクが好きになったのと同じように、私も幼少期から四輪が好きなんです)、少なくともバイクレースに対する興味はわきました。とりあえず国内・国外の大きなレースのこと。バイクの仕組み。知ろうと思えばいくらでも本物を知ることができる(by城嶋さん@湾岸ミッドナイト)時代ですから、せめて知識だけでもちゃんとしたものを仕入れたいと思います。そして、彼女らのことをもっともっと好きになり、世界を理解したいと思います。
 
 繰り返しになりますが、この物語は究極です。32年余り生きてきて、こんなに感動したことはありません。本当に、素晴らしい物語でした。
 
 
  おわりに
 
 
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