年末総力特集2013

熱い心とまぶしすぎる輝き――
『レガッタ!』『きみはジョッキー』『レーシング少女』を通して私が感じたこと
<2> きみはジョッキー編


これは随分と前に買ったものの、長らく読まずに放っておいた本です。……厳密には、途中まで読み進めたところで長い中断期間があったと言うべきなのですが、ほとんど内容を忘れてしまうくらい放っておいたので、今回は最初から読み直しました。
 
 元々競馬とは何か? ということを『こち亀』と『銀と金』で学び、ギャンブルの類を一切やらない身としては、競馬の世界と言うのはまったく縁がないものでした。それでもこの本を読んでみようと思ったのは、騎手が若い女の子の物語のようだからです。今から3年前、2010年のことでした。
 
 今でこそ、そんな自分にエルボースマッシュのひとつも食らわしてやりたいと思うところですが、当時はまだ外道趣味があったんです。次に書く『レーシング少女』の項でも改めて弁明する予定ですが、あまり女性の参加数が多くないスポーツをやっていると、それだけで気になってしまったのです。女性レーサー(二輪、四輪、ボートでも何でも)、女性騎手、などなど……。
 
 多分そんな気持ちだったから、結構まじめで熱い世界になじめず、いったんは逃げ出してしまったんだと思います。そう、これは赤字経営で閉鎖寸前の地方競馬場でデビューした女性騎手『新川奈津』と、彼女に少し遅れて厩務員デビューした『山辺啓』が様々な困難を乗り越えつつ頑張るという青春ストーリィなんです。ちなみにどちらも19歳です。大分若いです。
 
 
 この本によれば、中央競馬と地方競馬はシステムが大分異なるようです。たとえば厩務員とかも、別に何か資格が必要だと言うわけではなく、「明日から来い」と厩舎のえらい人が言えばすぐ厩務員になれる……と、これは少々乱暴な話ですが、そういうものらしいです。そのためここにいる人間は、みんな色々な過去を背負い流れ着いた海千山千の男たちの集まりだということです。
 
 そんなところに飛び込んできた若い女の子(奈津)。違和感ありまくりです。それを主人公の山辺啓が何とかとりなそうとするのですが、やはり彼も若くて話術に堪能ではないため、なかなかうまくいきません。
 
   それでも、誠実さというか、ひたむきさは必ず実を結びます。厩舎の中でも比較的年齢が近い(20代)の蹄鉄師――無愛想で悪態ばかりついているものの、心根はさっぱりした職人気質の男なのです――を始めとして、何とか自分のことを周りに認めさせ、その上で奈津の居場所も広げるために奔走する。中盤以降は奈津がよりよい馬に乗れるようアチコチにアプローチして依頼を取り付けてくるものだから、
 
 「啓は、奈津のエージェントだな」
 
 と言われてしまいます。こうやって営業活動のようなことを騎手に代わってやる人のことをエージェントと言うそうです。
 
 
 と、そんなこんなで色々なことがありつつ、少しずつ経験をつんでいく若い二人。しかしながら、競馬場の閉鎖するとかしないとかの問題は大きすぎます。若い二人がどんなに頑張っても、先が見えてしまった競馬場では「どうせ閉鎖になるのだから」という前提でそれぞれの関係者が策略をめぐらします。
 
 そんな停滞した空気の中、粛々と厩務員としての仕事をこなす山辺啓。……と、そこに颯爽と現れた品のいい若い女性。いきなり山辺啓のことを「おい、青年!」と呼び、飼育に関するアレコレを超・上から目線で問いただします。そしてフムフムと納得したかと思うと、馬に与える飼料を見ていきなり声を張り上げます。
 
 
 「この飼い葉を作ったのは誰だ! 厩務員を呼べ!」
 
 
 …………
 
 
 それは別に厩務員がタバコを吸いながら飼料を作ったとか、そういうわけではありません。理由は……まあいくつかあって、それが少々専門的な話なので、それを延々と引用することはしません。要するに、現在ここで行われている飼育方法は、理想的な飼育方法ではないということなんです。
 
 一応、この厩舎を取り仕切る立場の人間が、「これは現在の(最悪に近い)経営状況の中ではこれが精一杯なんだ」と弁解しますが、それをもこの女は一刀両断します。
 
 正しいことを実践する。気づいた過ちを放置しない。決断に迷ったとき、あとでもっとも悔いるのは、決断をしなかったことだ、と。
 
 それを理想主義的過ぎるとか、現実が分かっていないとか、綺麗事だとかと言ってうっちゃるのは簡単です。当時まだ20代だった私もそんな風に感じて、いったん読むのを休止してしまいました。
 
 ただ、30代の今になって考えると、逆にそういうスタンスの方が現実的なのかなと思います。決してラクではないけれど、ジリ貧を避けようとしてドカ貧になってしまった例もありますし。何もしなければ何も変わらないけれど、何かをすれば変わるかもしれない。その大博打に私も乗ってみよう。そう思ったのです。
 
 この女の名は天条京(てんじょう・みやこ)。閉鎖寸前の競馬場に降り立った、もう一人のメサイアでした。

 
 
 一通り読んで感じたのは、結局のところ、目指すところは一緒なのだなということでした。
 
 騎手(奈津)と厩務員(山辺啓)と社長(天条京)という具合に、それぞれの立場は異なるものの、成し遂げたい夢がある。そのための原動力は熱さであり純粋さなのだ、と。
 
 いいじゃないですか。もちろんただ熱いだけでは問題を乗り越えられないのが現実ですが、熱さがなければガス欠で完全に動きが止まってしまいます。まずは全力でぶつかって、手が触れたところで何をどうするか、テクニックを駆使する。そうすることで少しずつでも前に進めると思うのです。
 
 ……ということを私が語っても、説得力も何もないんですけどね。とにかく私はそう感じた。それだけ分かってもらえれば結構です。


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 おまけ:岩手競馬と女性騎手について

 閉鎖寸前の地方競馬というと、どうも私の地元である岩手競馬のことが真っ先に浮かびます。
 
 競馬場自体に行ったことはあるものの、競馬に参加したことがない私にとっては、閉鎖しようとするまいと大して関係ないものでした。一応、県内向けのテレビニュースとかで何度かその状況を見たことはありますが、かなりギリギリのところで存続しているようだということはわかります。
 
 また、岩手競馬は歴史的に見て、多くの女性騎手を輩出しているところであるといいます。ちょっと調べてみると、日本初の平地女性騎手であった高橋優子さん(故人)を始めとして、2012年に引退した皆川麻由美さんにいたるまで6人(だったかな)もいるそうです。そして現在、水沢かどこかの厩舎で新たな女性騎手がデビュー目指して日々トレーニングに励んでいると言う話です(すべてIBCラジオ『イブニングジャーナル』で聞いた話です)。
 
 ……そう考えると、『きみはジョッキー』の世界にも岩手競馬じたいにも、俄然親しみがわいてきます。
 

 くわえて、先日とある機会があって訪れた『馬っこパークいわて』という施設において、乗馬体験ができると言うことを知りました。足軽身分の私が馬に乗るなんて……という思いもありますが、こうなったら一度は体験してみたいと思います。