7th day 「混迷と失敗、そして復活……の章」


 最近はちょっと、車から心が離れていたかもしれません。

 なぜかといえば、色々と理由があるような気がしますが、まあバイクに気持ちが動いていったからでしょう。物理的には絶対に車の方がいいのですが、精神的にはバイクの方に寄ってしまったので、あまり車を運転することが楽しくなっていたのです。

 あとは最近飲んでいる薬のせいとか何とか、理由があるとすればあると思うのですが、とにかく車から心が離れていきました。

 その結果、雪道でスリップ。そして……。

 今日の記事では、今年の雪道・冬道および安いスタッドレスタイヤの体験記をまとめてみたいと思います。




 まず申し上げたいのは、どんな形をしてようがどんなエンジンを積んでようがどんな駆動方式であろうが、すべからく四輪自動車というのは、地面を4つのタイヤが転がって前に進んだり後ろに進んだりするものです。その面積はハガキ4枚分であり、それがグリップするかしないかで、安全に走れるか走れないかが決まるのであります。

 そんなことを十分に承知していたのに、私というポンスケ野郎は、そのタイヤ代をケチってしまったのです。現実問題として高価なタイヤを買う予算を計上できなかった……ということはあるのですが。教習所とかバイクとか、そういうのに思い切り使っちゃったし、お金。

 具体的な名前をあげましょう。今年私がチョイスしたのはトーヨータイヤの『アイスフロンテージ』です。……トーヨータイヤと名前はついていますが、実際のところはイエローハットのタイヤです。トーヨータイヤカタログには載っていません。どうやらイエローハット専売商品というか……まあトップバリュ商品みたいなものです。だから尋常じゃなく安いんです。新品4本セットで、組み換え取付工賃含めて3万くらいですから。タイヤ4本だけなら2万円くらいだったんです。

 ただでさえ雪深い北東北。ましてや私の職場は八甲田山のふもと。十和田市と青森市の間は「八甲田ゴールドライン」と呼ばれ、年間を通して通行可能ですが(夜間は規制がかかる)急こう配・急カーブに加えてものすごい積雪と凍結……水曜どうでしょう風に言えばキングオブ冬道です。ドラテクとか何とかって問題ではありません。そもそも物理的にグリップするとかしないとか、そういう次元の話ですから。

 そんな状況ですから、標準装備はブリザックVRXです。世界最高レベルの高性能スタッドレスタイヤであり、当然コストも最高レベルですが、そのくらいの装備をしてようやくまともに走れるのです。それなのに私ときたら……。

 はい、それでは、実際どうだったのかを書きます。


 インプレッサのシンメトリカルAWDシステムをもってしても、この安物スタッドレスタイヤで八甲田ゴールドラインを走ることは困難を極めます。速い話が、とにかく滑るんです。冬道を走る時の安心感がほとんどないのです。「夏タイヤよりはまし」とか「15年落ちのブリザックよりはまし」とか、その程度です。ちなみにその15年落ちの〜というのは、私がインプレッサを買った時に車屋さんが付けてくれたものです。これも夏タイヤよりはまし……なのか何なのかわかりませんが、まあよろしい。

 要点は、繰り返しますが、滑るんです。インプレッサだから走ることはできるんですが、曲がるにしても止まるにしても、ある程度滑る前提で走らなければなりません。時速40キロから危険水域です。時速70キロ以上では、緩いカーブでさえ曲がれる保証はありません。そのスピードで減速するためには、自分から雪壁にこすりつけるしかありません。実際そうやって何度も難を逃れました。まあ時速70キロというのは、よほど道幅が広くて見通しも良くて、万が一の時にも自分以外の誰かに危害が及ばない……そういうことが確認できたときに、ひとつの実験として試みたまでであり、怖くてそんなスピード出せませんが。

 この時の精神状況というか、心構えも、良くなかったのでしょうね。

 先述した通り、すでに車から心が離れていたから、今一つ集中できない。その一方で、一応15年くらい無事故無違反で来ているし、冬道もそれなりに走ってきているし。あえて言えば、自分はそれなりに運転がうまいつもりでいたのです。ハイ、一番危険な状況です。

 ただし――それは「自分は運転がうまいからスピード出しても大丈夫だろうイエイ」といってWRCばりの無謀運転をするわけではありません。慎重な運転をして、それでもなおスリップしたり事故を起こしそうになった時、事故を回避するためにアレコレできるはずだ――また、そうしなければならない――そう考えながら走っていたということです。

 それなのに、2回も同じようなシチュエーションで失敗をしてしまったのです。それも最悪のやり方で。

 左カーブを旋回中に後輪がスリップ
 ↓
 とりあえず、まっすぐ向けようとしてハンドルを右に切る
 ↓
 元に戻らない(操縦不能)
 ↓
 モハヤコレマデ


 そして横向きのまま滑走した挙句、クリッピングポイント付近に正面からぶつかって停止……前後にほかの車がなかったからよかったものの、見通しの悪いカーブをふさぐような形になってしまい、申し訳ない気分になりました。

 しかも2回目はガードレールでしたからね。1回目は分厚い雪壁に「ドスッ」と刺さったので、ナンバープレートが折れ曲がったくらいで済みましたが、2回目は「ドスン」と衝撃がありました。最後の瞬間までブレーキを踏んでスピードを落としていたので、エアバッグは作動しなかったものの、少しく車を壊してしまいました。

 ・ボンネットがちょっと変形
  (ボンネットがつぶれて衝撃を吸収するのが車ですから)
 ・バンパーが傷だらけに(バンパーはぶつけるためにあるという日本車の哲学だ              ↑それはアメリカ車の哲学だった気がする)
 ・その他樹脂パーツ破損少々

 ……まあ逆に言えば損傷軽微、今のところ特に支障なく走ってくれるので、その程度で済んで良かったというべきでしょう。運転操作については愚劣最悪極まりないヘボ運転でしたが、命も車も助かったのだから。谷底に落ちたら春まで発見されない恐れもあったのですから……。




 気持ちが離れれば、車の走らせ方も粗雑になる――『湾岸ミッドナイト』でも、そんなことを言っていた気がします。

 もう、手放そう。色々と修理費用を捻出しなければならないのなら、もっとイージードライブでコストのかからない車にしよう。もう車が好きだとか運転がうまくなりたいとか、そう言うのをやめよう。
 
 ……そう思っていたのですが、1年前、このインプレッサを手に入れたばかりの頃によく聴いていた『セガラリーチャンピオンシップ』のサントラを聞いていて、考えを改めました。

 「ここであきらめてはいけない」

 普通車の車格で、4輪駆動で、マニュアル。それは免許を取った日から、ずっと憧れていた車でした。なかなか見つけられなくて、ようやく手に入れたこの車を、いい加減な気持ちで扱ってはいけない。まだローンも残ってるし、これを手放したら、こんな条件の車に巡り合うことは二度とないかもしれない。

 そんなわけで、またやり直しです。この悲劇が二度と繰り返されないことを願って、私は走り続けなければならないのです。車を愛する者であり続けなければならないのです。

 車は車でいいところがある。バイクはバイクでいいところがある。それをちゃんと、どちらに偏ることなく、両立させていかなければならないのです。

 といって、利便性とか合理性とか、そんなことを言い出したら、車もバイクもいらなくなります。突き詰めれば、全部ネットショッピングで家から一歩も出ずに生活すればいいのですから。そういうわけではありません。

 車も楽しい。バイクも楽しい。違う乗り物だから、違う楽しみ方がある。

 これからは、そんなことを考えていきたいと思います。




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