5th day 「穏健の章」


 インプレッサに乗り換えて、はや半年。随分となじんできた感じがします。

 走り始めた頃は「NA1.5Lだからって、遅いわけじゃない」と、高速道路だろうと国道4号線だろうと速い車を見れば張り合ってきた私ですが、最近はそういうこともしなくなりました。

 「ま、こんなもんかな」

 そういうのがわかってきたからです。

 モータースポーツの世界でも、絶対的なパワーがある車と直線勝負をすればかないません。同じGT300カテゴリでも、350馬力のBRZは500馬力600馬力クラスの車(GT3車両)にはかないません。1.5L直4のインプレ子は、3.5LV6のミニバンにはかないません。ましてや相手がEJ20+ターボでドーピングされた280馬力以上のレガシィとかでは無理でしょう。向こうはヘビー級こっちはバンタム級。そういうことです。一方、そういう人に限ってカーブに差し掛かればブレーキを踏むし。

 ストレートで離されてカーブで差を詰める。そういうことができる車だとわかったので、それで十分です。


 また、公道でスピード競争をしたって意味がないし、それで一回、命を落としそうになったからです。あまり思い出したくないことですが、気持ちを整理するためにも書きます。

 八戸ナンバーの、後ろに大きな追突痕があるレガシィでした。追い越し禁止区間を猛スピードで追い越していったと思ったら、しばらく先を時速20キロ以下のノロノロ走行。仕方がないので抜こうと思ったら向こうも急加速。彼方に対向車のライトが見えたのでブレーキを踏み後ろについたら、前の車も急ブレーキ!!!

 たぶん、その手で自分の車に追突させるのが目的だったのでしょう。危なく私もその餌食になるところでした。

 どこをどうしたんだか、よく覚えていません(ドラレコに録画したその映像はパソコンに保存していますが)。まあたぶん、私の車の方が若干軽い分、制動距離が短くて済んだのでしょう。何とか事故を起こすことはありませんでした。

 その後もまた、レガシィはノロノロ運転。窓から手を出して「先に行け」と合図をするような仕草までありましたが、

 「バカを相手にしてたんじゃ、命がいくつあっても足りない」

 そう思って交差点でUターン。対向車線に進入してしばらく走った後、再び目的地へと転回しました。幸いにもそのバカに再び出くわすことはありませんでした。路側帯に車を止めてボンネットを開けていたようです。もしエンジンブローか何かしていたのなら「いい気味だ」と思いますが、無用のトラブルは極力避けたいので私は素通りしました。二度とかかわりたくないというか、そんな奴にスバルに乗ってほしくないという思いです。というか車に乗ってほしくない。

 「なぜ大切な車を凶器に変える」

 これは「頭文字D」の終盤に出てきた登場人物・池田竜次さんのセリフですが、まさにそんな感じです。

 直線でスピードを出すのは、こういうバカでもできることです。だからこそ、下道でそんな競争をするのもバカみたいで嫌だなと。全身が震えるほどの恐怖とともに思い知ったのでした。


 そしてもうひとつ。これは最近DVDで『ラッシュ/プライドと友情』という映画を見たことがきっかけです。

 これは1976年のF1世界選手権を舞台に、どちらも実在のF1レーサーであったジェームス・ハントとニキ・ラウダのライバル関係を題材としている伝記アクション映画です。

 以前もどこかで書きましたが、私はニキ・ラウダが大好きです。小学生の頃にコロコロコミックで「ニキ・ラウダ物語」を読んで以来のファンです。セナよりプロストよりシューマッハよりもラウダです。それは今でも変わりありません。そういうことで見ました。

 「好きなことを好きなだけやる」といった自由奔放超絶プレイボーイのジェームス・ハントに対し徹底的にビジネスライクで冷静に生きていくニキ・ラウダ。お互い相容れない関係であり、何度も衝突するものの、ある事故をきっかけにその関係が少しずつ変化し、そして……と、まあ映画ですから当然、ある程度の脚色はされていますが、非常に面白い映画でした。ジェームス・ハントかっけえええ! 本物のハント氏も大体同じような格好良さであり、こりゃ〜女もイチコロだわなと思ったとか思わなかったとか。R15指定なのはラウダのケガの凄惨さゆえじゃなく、この好色一代男のエロシーンがバンバン出てくるからかな。いやそれはさておいて。

 映画の中のニキ・ラウダは、公道では極めて安全に運転します。同乗していた女性に「あなた本当にF1レーサーなの?」「お爺ちゃんみたいな運転するのね」とバカにされますが、それに対して「公道を速く走ったところで1円ももうけにならない」「私は金をもらうために車を速く走らせるんだ」といった意味合いのことをさらりと言い返します。

 まあ、そのあと色々あって結局、F1レーサーの腕前を公道で披露することになるのですが、私はこの言葉に深くうなずきました。武道の達人とかもそうだと思うんですが、本当に運転スキルがある人はきっと、極めて安全で安心感のある「退屈な」運転ができる人なのでしょう。それでいいんです。公道はサーキットじゃないんですから。

 『頭文字D』とか『湾岸ミッドナイト』は大好きです。ドリドリこと土屋圭市さんの峠ビデオをはじめとする映像媒体で見るハイパードリフト走行はすごく格好いいと思います(D1とかドリフトマッスルのような、コンテスト的なドリフト走行には全然そそられませんが)。でも、それは私とは違う世界で繰り広げられていることですから。私たちはそれらを見て楽しむだけにとどめておかなくちゃいけないし、それでいいと思うんです。そのためのまんがでありビデオなんですから。まんがに対して「道交法違反だ!」なんて糾弾してどうすんの、と。

 

 「加速のいいクルマは飽きやすく、遅いクルマには慣れるということもある」
 
 
 数少ないNAインプレッサ乗りの方の記事です。まさしくその通りだと思います。
 
 NAインプレッサ、競争する車じゃないんです。

 かといって「ゲタ代わり」というほど安い車でもありません。

 地味だけど質感がある。穏健だけどやる時はやる。そういう車なんです。


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