私と魔女――角野栄子 『魔女の宅急便』論

 

(注:今回は『魔女の宅急便』がテーマなので、割とそれらしい立ち位置で書いています)


 振り返ってみると随分とねじくれた人生を送ってきたもので、普通この年代(1981年生まれ)の人間であれば宮崎駿監督の映画のひとつやふたつ観たことあるのが当然だと思うのですが、私は見たことがありません(ジブリ映画、というくくりなら『猫の恩返し』を見たことがある、と言えるのですが)。
 
 『魔女の宅急便』というと、一般にはその宮崎監督のアニメ映画で知っているという方がたくさんいらっしゃると思います。私も見ていないながら、ポスターと主題歌くらいは知っています。
 
 そしてそのまま魔女とかかわりのない人生を歩んでいくはずだったのですが、ある一枚のチラシが私と魔女の世界を引き合わせてくれました。
 

 
 2011年の秋に仙台文学館で行われた『魔女魔女ワールド』のチラシです。

 私の住む街から仙台までは車で4時間(高速なら2時間)。行っていけない距離ではありませんが、さすがにチラシの女の子に心惹かれたから行く、というほど行動的ではありません。ただ、先ほど申し上げたように『魔女の宅急便』というのは初めからアニメ映画で原作本など存在しないッ! と思っていただけに、

 「まあ、原作本を読むのはいいかもね」

 と思ってその日の帰りにリサイクルショップの古本コーナーにあった第一作を買ったしだいです。なぜ古本屋ではなくリサイクルショップなのかと言う話ですが、ここにその第一巻があったのだから、これも含めて魔女の引き合わせなのでしょう。キキとすべての魔女たち、それに魔女が住む世界の人たちのために、あえてそう言わせていただきます。


 昔々からのしきたりで、魔女になる女の子は13歳になったらひとりで旅立ち、どこか知らない街で一年間の修行をしなければいけない。そんなわけで魔女とそうでない男性の間に生まれたハーフの魔女・キキは愛猫・ジジを連れてコリコの街に行きました。そして唯一の魔法である『空を飛ぶこと』を生かして、宅配便の仕事をすることになったのでした。はいそんな話です。

 映画では1年間の修行を終えて故郷に帰るところで終わりますが、その後すぐにキキはコリコの街に帰ります。そしてその後ず〜っとコリコの街に住み続け、宅急便商売を続けるのです。13歳で来たキキが14歳になり、15歳になり、16歳、17歳、そして・・・と続いていきます。

 色々な出来事があり、いろいろな人との出会いがあります。その中で色々と怒ったり泣いたり悩んだり危ない目に遭ったりするのですが、たくさんの人の助けとキキ自身の気持ちでそれらを全部ひっくり返して、おつりが来るような喜びを得られる。ついでに私も同じように、うれしい気持ちになってしまう。

 それは30代の感情ではなく、10代の感情でした。それを読んでいる間、心の何割かがキキと同じ年代に戻ってしまっていたんですね。理性は30代だけど、感情は10代。30代の私が世界の全体像をながめ、10代の私がキキと一緒に感情を爆発させる。

 私自身がその年代だったころを振り返ると、文化系パンクと言うか・・・色々な感情をねじ伏せねじ伏せ生きてきたのでね。そんな私の捻じ曲がった心を、キキに託して物語を読み進め、修正することができた気がします。

 これは私だけの妄想ではありません。別に自分を擁護するためではありませんが、作中では実際にそういう人がいました。幼いころにしてしまった過ちを修正するための宅急便をお願いした人がいたのですが、その人も過去と未来を精神的に行ったりきたりしていました。つまり、そういうことなのです。


 そんなキキの成長物語は、5巻で大きな転機を迎えます。13歳から始まったキキも、この巻ではすでに19歳。そして20歳を迎えます。この時点ですでに宮崎監督はハナも引っ掛けないでしょうし(たぶん)、魔法少女キキが好きだったオタク諸氏は「まどかマギカ」か何かに行っていることでしょう。私は魔法少女好きと言うか魔女キキが好きなので、もちろん読み続けますが。

 そして最終第6巻では、そこからさらに15年後の物語となっています。すっかり大人の魔女になったキキ。そして物語は次の世代へと受け継がれます。サブタイトルの『それぞれの旅立ち』というのは、そういう意味合いです。

 こうなると、さすがの犬神も少々戸惑いました。5巻を読み終えてから6巻目を読むために、一晩の猶予を必要としました。何せ20歳になった日から、さらに15年となれば・・・それまでは『過去の自分』として物語の世界に入っていたのに、6巻のキキは私よりも少し年上です。そうすると、おれはいったいどういうスタンスで読めばいいんだ・・・と思ったのですね。

 まあ、一晩寝て起きたら、すぐに気持ちが決まりましたが。「過去に戻らず、今のおれとして物語の中に入っていけばいいんだ」そういうことです。

 で、これに関しては一息に読んでしまいました。そして私とキキ(とジジ、それにその他の皆さん)との旅は終わってしまったのでした。


 
 そんなこんなで、魔女たちからは、たくさんの贈り物をもらいました。キキが宅急便屋さんだとすると、私のところにもたくさんの「気持ち」を運んでくれた、というところでしょうか。楽しいとき、つらいとき、どうしたらいいのか。そんな、どこかに置き忘れてきた感情とその処方箋。まあ運んでもらったというよりも、運んでいるものを横取りしたようなもんですが。

 魔女の基本理念は「もちつもたれつ」であり、お礼は「おすそわけ」なのだといいます。なので今回は、コリコの街にはこんなに素敵な魔女がいますよ、ということを宣伝します。そして、もっとたくさんの人がコリコの街に行き、クラシカルな黒ずくめの服を着た魔女のことを知ってもらうことで、お礼とさせていただくことにしましょう。




 ・・・今度、実写版が出ると言うし、今のうちにアニメ映画の方も見ておこうかな・・・原作のキキが本物のキキであることに変わりはありませんが、一応・・・ね。




2023年1月27日 追記

 この記事を書いたのが2013年の7月でした。

 この頃は仙台文学館がどこにあるのかも知りませんでしたが、今は歩いて行ける距離のところに住んでいます。想像だにしなかったですね、そんなこと。

 実写版のキキってのは、確か小芝風花さんでしたね。今もバリバリ大活躍中です。そして、スミマセン結局アニメも実写も見ていません。

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