reminiscence(追憶)湾岸ミッドナイト
――阪神高速編

 1ページで一気にシリーズひとつ分振り返ることができるのかというと、ちょっと自信がありませんが、とにかくやってみます。
 
 それまで『阪神高速編』というか『エイジ編』というか、この話はあまり好きではありませんでした。といって何か決定的に嫌いな理由があるわけではないのですが、コミックスを買う順番としては後のほうになっていました(城島編→マコト編→ユウジ編→初期〜マサキ編という順番で買い集めていた)。
 
 あえて理由を挙げるとすれば、私があまり関西系のノリに慣れていないからとか、ランサーエボリューションという車がキャパシティ(エンジンの排気量)の面で1ランク落ちるとか、そういうことがあったからかな。いずれ順番としては後のほうだし、一時期『湾岸』それ自体からも離れていたので、最初の頃に立ち読みでおおよその流れをつかんで以来、本気で読み込むことはありませんでした。

 でも、最近では一番好きだったマコト編を抜いて、トップに出てきました。
 
 何でだろう。――それは多分、私がエイジさんの年齢とほぼ同じくらいのところまで生きたからだと思います。そして私にも年の離れた弟がおり、その弟が今年大学に入ったからだと思います。ちょうどエイジさんの義弟のマキと同じくらいですね。
 
 自分の持っているもの、持っていないもの、いいなあと思うもの――そんなものを照らし合わせながら読めるからなのかもしれません。時に自分と重ね合わせ、時に兄貴のようなイメージを重ね合わせ、何度も何度も読み返すうちに色々と感じるところがあったので、それをまとめてみたいと思います。なお、それくらい思い入れがあるので「さん」付けでこのあとは書かせていただきます。
 
 
 かつて『WORKS−R』というチームを組み、地元の阪神高速を走り回っていたエイジさん。ただし仲間は次第に走りの世界から抜け、今では実質ひとりチームです(一応マキもステッカーを貼ってますが)。走りの腕が最高なのは当然ですが、同時にチューニング技術も優れており、ガレージにはフライス盤やエンジン室なんかもあるという凝りようです。オイル交換さえイエローハットに頼む犬神とは雲泥の差ですが、だからこそスゴいなあと素直に思います。
 
 愛車のランエボ5は、基本的にはバランス取りのみの純正仕様で、タービンも社外品ではなく純正のものを使用しています。足回りやボディ補強などはガッチリされているものの、パワーに頼らない『ジミ系』のチューンとなっています。
 
 ‥‥と一言で言えばそんな感じなんですが、それがいかに地味で精密な作業なのかというのを理解したのは最近でした。いわゆる『エンジンの仕組み』というものについては非常に漠然としたイメージしかなかったんですね。でも、最近になってそういうメカの解説書を読んで、エンジンというのは非常に多くの部品で構成されているんだなということを知って。
 
 平本さんのGT−Rもそうでしたけど、こうやって丁寧に組む作業というのは――車に対する深い知識と愛情がないと、きっとできないんだろうな――そういうことを思いました。
 
 
 そうやって地元では無敵状態だったエイジさんでしたが、あることをきっかけに東京に出ます。そして色々な人との出会いを経て『悪魔のZ』と走ることを目標に置いたチューニングを始めます。
 
 これまでのシリーズであればブロー覚悟の超パワー設定にするところですが、『リカコ』の発案によりパワーに頼らないで300キロを引き出すテクニカルな仕様となります。エンジンは2.2Lにストロークアップするものの、パワーは+50馬力程度。その代わり輸出用ファイナルギアを組み付けて最高速を稼ぎ、回転を重ねることで300キロを出すという――その場に居合わせた男たちが軒並み冷や汗をかくような斬新なアイデアでした。
 
 一昔前の私には、それが物足りなく感じたんですよね。ホラ、こういうチューニングカーってゲームの中でしか知らないですから。ピッピッピッとやれば、どんな車だろうと500馬力600馬力当たり前。450馬力? そんなのじゃタルくてね――なんつってね。
 
 でも、そうじゃないですよね。メーカーの威信をかけたレース仕様だとかテストコース1周持てばOKな仕様とかじゃなく、市販車ベースで公道をたくさん走る車に載せるエンジンなんだから、ちゃんと壊れないようにしなきゃいけない。そのことを理解できたのは、本当に最近のことでした。
 
 
 そんなわけで、派手さはないもののしっかり300キロまで出る仕様に生まれ変わったランエボで悪魔のZそしてブラックバードとのバトルに挑むエイジさん(とリカコ)。C1では両者を抑えて前を走りますが、湾岸に出るとやはりパワーの差が出てしまいます。
 
 一応、10秒限定でパワーを最大限に引き出す(その代わり確実にエンジンブローする)コンピュータ・プログラムも組み込まれていましたが、結局最後まで踏み切れずにスローダウンしてしまいます。
 
 
 壊して壊してわかっていくんがプロなら‥‥
 やっぱりオレはなれんわナ プロのチューナーに
 
 わかるわコレ 10秒全開でほんまイクわ
 そんなんやっぱ たえられんやんけ――
 
 ホンマや マジで最高 お前の組んだこのEg――
 
 オレはもう これ以上踏めん――
 
 
 
 そしてエイジさんは大阪へ帰っていきます。元々3ヵ月限定と区切ってきていたものですが、それよりも少し早く。家族のもとへ――。
 
 
 このシリーズで犬神が感じた大きなテーマは『自分の気持ちを納得させるような生き方』ができるかどうか、ということでした。
 
 チューナーになりたいという夢を持ちつつ、家族と一緒に(借金まみれの)会社を盛り立てていく道を選んだエイジさんに対する周りのオッサンたちのアドバイス。
 
 「後悔はある あるけど納得できる人生やった」
 
 「後悔しても納得できる人生送らんと 結局自分がツラいんとちゃうか?」
 
 そう言われて自分の気持ちにケリをつけるため東京に出てきて、走りの世界に没頭して。
 
 
 オレはやっぱりお前の兄貴にはなれない 父親にはなれない
 オレが大阪に帰ればそれで終わりだ――
 
 
 一時はそこまで思いつめたこともありましたが、先述したようにチューナーになれないことを悟ったエイジさんは、結局大阪に帰ります。ちゃんと気持ちにケリをつけて。
 
 
 一方の私のほうはまだまだ迷ったり悩んだり走り続けているところですが、右に行くか左に行くか迷った時には――たといどんなことがあっても、自分が納得できるような選択をしよう――そう思うようになりました。
 
 あと、私もチューナーとかレーサーとか、そういう業界の人間とは根本的に違うんだな、と思いました。単純にウデがないとか知識がないとかだけじゃなく、もっと根本的な――スタンスの違いというか。車が好きな気持ちはあるけれど、私の場合はどこまで行ってもアマチュアだし、それしかできないな、と。
 
 サーキットを走ったこともないし、ネジ一本回したことがない――そんなので車好きなんて言えるの? という思いがずっとありましたが、とりあえず私はこのまま行きます。前回のエントリでも書きましたが、自分でEgが組めなくても、その仕組みを知り、いたわりながら接する――それでいこうと思います。
 
 
 
 タイトル 「幸せ家族の写真(byシゲさん)」
 
 
 
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