「キング」が盛岡に来た日――
 2011.4.17 グルージャ盛岡vs横浜FC観戦記



 私がサッカーというものを、もっと言えばプロの選手が行うサッカーというのを意識し始めたのは、多分に漏れず1993年のJリーグ開幕がきっかけでした。

 その時のメンバーといえばラモス、武田、北澤、そして三浦……ヴェルディの選手ばかりで恐縮ですが、ともかくこういった人たちを見て、自分はサッカーヘタ蔵 ではあるものの、何となく「カッコイイ」と思っていたのでした。ちなみに当時は小学6年生でした。

 ところがそのサッカーへの興味は、その後急速に落ち込んでいきました。そして4年に1度の、普段サッカーなんて見ないような人でさえ見てしまうワールドカップに さえ、興味を持たなくなってしまっていたのでした。


 それがまたくすぶり始めたのが、去年のワールドカップ。94年、98年、02年、06年とスルーし続けたものの、去年は日本選手が大活躍しましたからね。「もしかしたら、 サッカーって面白いのかもしれない」と思い始め、とりあえず有名どころの選手の名前を覚えるところから始めている次第です。

 あとは、私がサッカーに興味を持ったころからず〜っと現役選手として活躍している、カズさんの存在が大きいですね。もう40代、同じ時代に活躍したラモス選手は 解説者になり、武田選手はバラエティ番組に活躍の場を移しているのに、カズさんは今も現役。もちろんプロの世界ですから、戦力外となればすぐにファイヤー(解雇) されてしまうのですが、受け入れてくれるのならそれが外国だろうとJ2だろうと受け入れてもらって、そこでプレーをする。

 20代の選手に混じって、ひとりのプロ選手として活躍する体力も、精神力も、とにかくすばらしいと思います。だから、そんなカズさんが好きだから、サッカーのことを もっと知りたい――そう思ったのでした。


    1.


 そんな中、カズさんが所属する横浜FCの面々と、我が県のサッカーチーム『グルージャ盛岡』との練習試合が行われるという情報を岩手日報の電子版でキャッチ。 しかもその日は私の休日と合致するではありませんか。

 グルージャ盛岡というのは、東北社会人リーグのチームなので、普段は交わることのない両チームの交流、しかも相手チームにはカズさんがいる……。知識も熱意も まだまだ初心者レベルの私ではあるものの……いや、むしろこれをきっかけに、本気でサッカーというものに向き合えるのかな、と思い、実際に行くことにしました。

 とりあえず15時キックオフということで、その1時間ほど前に会場入り。……やはりカズさん人気なのか、かなり盛況でして、この時点で競技場の両サイドは満席状態。 もちろん今回の震災により被害をこうむった沿岸地域のサッカー少年少女らが招待客として来ているので、その分もあるのでしょうが、それにしてもかなりの動員数でした。

 そういうわけで私が陣取ったのは、ゴールポストの斜め後ろにある芝生部分の観客席。いや席はないんですが(笑)ともかくフィールドに最も近い場所に陣取ることが 出来ました。そしてフィールドでの練習模様をしばらく眺めたあと、セレモニーを経て試合開始。


   2.
 

 サッカーどころか、スポーツ観戦ということ自体、ほとんど体験のない犬神ですから、今回はそういった応援の作法(?)みたいなものを体感する場でもありました。

 今回私たちの観客席には、大きな太鼓と大きな声で観客のテンションを引き上げる「グルージャ盛岡応援団」(仮称)がついていたので、なかなか盛り上がりました。

 もちろん私もグルージャ盛岡を応援しまくっていたのですが、その一方でカズさん人気がすさまじく、本当は自分たちのチームがピンチのはずなのにカズさんが 攻め込んでくると「オオー!」と歓声を上げてしまうのですね、みんな……。

 まあ、そんなこんなでホームだかアウェイだかわからない状況ではありますが、とにかく試合はすごく頑張った感じでした。結果だけ見れば前半で1点、後半で1点を 入れられ、2−0でグルージャ盛岡の負けではありましたが……後半のアグレッシブなグルージャ勢の攻めは、見ていてとても熱くなりました。たぶんそういう戦略を とらなければいけないということだったのでしょうが、とにかくゴール近くまで何度も迫っていく姿はかっこよかったです。

 そんな感じで試合は終了したのですが、そのあとは両チームの選手が「がんばろう東北」という横断幕を持って、フィールドを一周してくれるという サービスをしてくれまして。結果的にはかなり間近でカズさんを初めとする選手たちの姿を見ることが出来たのでした。


   3.


 そもそもこの試合が組まれたのも、震災で色々と大変な目に遭ったサッカー少年少女らに力を与えるためだろうと思っていたので、当然チャリティー活動にも 協賛してきました。

 まずは会場入りする時に、真っ先に見かけた少年らの募金箱に硬貨を投入。さらに試合終了後、少女らが手売りで販売していたチャリティーTシャツを購入しました。 ちなみにこのTシャツ、サイズがSとXSしかないということで、実際に着るには少々アレですが、まあ買うこと自体に意義があるのですから。これで彼ら彼女らの 気持ちに少しでも応えられたのなら、でもって被災した人たちに少しでも手助けが出来たのなら、よかったかなと思います。


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 本当はここでこの文章も締めくくりになるはずだったのですが……思いがけないフィナーレがありました。

 試合終了後、完全に今日のすべてを終えたつもりの私。いったん近くのゲーセンで遊び、誰もいなくなったであろう競技場を見て帰ろうと思ったのですが、 妙にたくさんの人だかりが出来ている。

 とりあえず野次馬根性でその人だかりに混じってみたのですが、どうやら横浜FCの面々がバスで会場を後にするところだったようです。すでにほとんどの選手は バスに乗り込んでいたものの、どうやらカズさんはプレスの取材のため競技場の控え室にいるらしいということを、誰かが言っていました。

 そして、しばらくして現れたカズさん……。

 なんというか、ド近眼の私でもちゃんと顔が判別できるくらいの距離で見られること自体が、すごく感動的でした。そんなことするつもりはなかったのですが、周りの 人たちがやってるもんだから、ついに私も携帯電話のカメラで写真撮影を敢行してしまいました。結果は……まあ、あえて言いますまい。ともかく、もう終わったと 思っていただけに、最後のお見送りを出来たのはすごく嬉しかったです。

 こうまでしてもらったのだし、やっぱりサッカー、これからも見ていかなければいけないなと思いました。J2リーグは横浜FCを、そして社会人リーグは グルージャ盛岡を。少しずつってことになるでしょうが、これからもサッカーの世界を追いかけていきたいと思います。


    *


 そういえば、今回来てみて「へぇー」と思ったことがありまして。

 それというのは、意外と中高生の女の子が多いな、ということ。……20代の有名選手が出ているのなら「やっぱりね」と、それほど驚きはしないのですが、カズさんの ファンって言うのはもう少し年齢が上なのかなと思っていたのでね。これはちょっと意外でした。

 ……いやいや、これは私のようなミーハー野郎の感想なのでしょう。こんなことを言ってみたものの、そういった女の子らの中には、学校の「女子サッカー部」の ジャージを着ている子もいましたからね。たぶん、純粋にサッカーが好きで、しかも自分でもプレーヤーとしてやっている子らなのでしょう。

 知識も初心者レベルながら、プレーに関してはそれ以前の問題ですからね。自分には出来ないことをやっているのだから、ただただ素直に頑張れと思います。


 あとは、当然ながらなぜかマイボールを持っているボーイたちがたくさんいました。あれって私がボーイだったころもそうだし、たぶんそれ以前もそうだったん だろうなあ……。


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