国を守り、人を守る  陸上自衛隊岩手駐屯地 創立55周年記念行事 観覧記
 Jun,10,2012
   




 今をさかのぼること十数年。20年と言うには少々少ないですが、それでも四捨五入すれば20年といえる くらい昔のことです。西暦で言えば1994年のことです。

 当時、兄者がどういうわけか買ってきた「アームズマガジン」をきっかけに、一発でミリタリー小僧になって しまった私。翌年の夏にはアームズマガジンがないからといって『コンバットマガジン』を購入。元自衛隊員の 高好ヨリさんが迷彩服やナチスドイツ軍の制服を着た写真を眺めてドキドキしつつ、急速に銃器や何やといった ものへの知識を深めていきました。

 そんな折、同じくミリタリー好きな親父に連れられて、陸上自衛隊岩手駐屯地の記念式典に行きました。そこで 買ってもらった迷彩柄のジップアップパーカーは擦り切れるまで何度も着まわしました。それくらいお気に入り だったのです。あと、1冊50円の破格値で売られていた門田泰明先生の『黒豹』シリーズを20冊くらい まとめて買い入れたのも、この記念式典でした。

 しかしながら、そんな軍国少年への道を歩んでいた私も、次第に銃器を愛することに疑問を持ち始めました。 銃器とは何のための道具かと言えば、人を傷つけ殺すための道具。そんなものを振り回して喜ぶのはどうなのか。 そんなこまっしゃくれたことを言って、しばらくミリタリーなことから離れて生きていました。


 それから思いっきり年月が過ぎて、2012年。

 たまたま週休日と開催日が合致したので、これも何かのチャンスだと思い、行ってみました。

 自衛隊の人たちに対する思いを確かめ、よりいっそう強くなった。そんな一日でした。
 

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 最初は午前中から行こうと思ったのですが……駐屯地への入り口の数キロ手前から大渋滞が始まっていました。 こりゃたまらないと思って急きょ転進。何となく入った道路の先にある小岩井農場に行ってしまいました。

 何となく行ったものの、こちらはこちらで非常に楽しい体験がありました。やっぱり日曜日と言うこともあって 人がたくさんいたので、その雰囲気に乗せられてトロ馬車(鉄路を走る客車を馬が引っ張る乗り物)に乗ったり、 馬の背中に乗ってみたり……と、今までやりたくてもできなかったことに次々と挑戦。たっぷり楽しみました。

 それで「ああよかった、楽しかった」といって家に帰ってもよかったのですが、岩手駐屯地でのイベントは 午後3時まで行われているとか。その時点ではまだ12時をちょっと回ったところだったので、

 「今から行けば、何とか入れるんじゃないだろうか」

 そう思ったのでした。

 それでも念のために、多くの人が利用する国道ではなく、地元の人しか知らない山の中を縫うような道を疾走、 多少距離を稼いでから国道に合流しました。

 果たして私の読みは的中しました。反対車線はすさまじい渋滞なので、「帰りは大変そうだな……」という懸念が あったものの、とりあえず入ることはできました。十数年前から止まっていた時間が、いよいよ動き始めたのです。


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 通常は不審者が入らないよう見張っている検問の隊員さんから、こちらはいち民間人に過ぎないのに ビチッと! 敬礼をしてくれて、それに恐縮しながら場内の特設駐車場へ。

 その時点ですでに大轟音が駐屯地中に響き渡っていました。

 「ああ、戦車が動いているな」

 すぐにわかりました。戦車の体験乗車といえば、空砲による演習と並んでこの手の自衛隊イベントの華で すからね。当時は乗ったような乗っていないような、どうにも記憶があいまいなので、今回はぜひ乗ってみたい! 時間もあまりない中ではありますが、そう意気込んでカメラとバッグを肩から提げ、会場へとダッシュ したのでした。

 しかしながら、さすが74式戦車は一番人気と見えて、2度3度と折り返してもまだ続く待ち人の列。 これじゃ乗るのを待っているうちにタイムアップになってしまうなと思った私は、それほど長い行列でもない ほかの戦闘車両への体験コーナーに並びました。

 最初に私が乗ったのは、え〜と……96式装輪装甲車というやつでした。タイヤが8個ある装甲車です。

 乗り降りは真後ろのドア(自動)からで、おそらく兵員が乗るであろうスペースと運転手が乗るスペースの間は 直接行ったり来たりできなさそうな雰囲気でした。一応同じ空間ではありますが、外側からの見た目よりはずっと 狭いです。あと、天井も意外と低くて、乗り降りはかなり身体をかがめないとできません。

 その代わりいくつか天井に穴が開いていたので、そこから顔を出してみました。公道を走る車輌であれば厳に 慎まなければいけない行為ですが、これは戦闘車両だし、ここも公道ではないし。オープンエアーな状態で 自衛隊気分を満喫したのですが……走行中はしっかり穴のふちにつかまっていないと怖くて仕方がなかった、と いうのが正直なところです。


 そのあとは1/2tトラック(旧名73式小型トラック)、さらに軽走行機動車へ次々と体験乗車。どちらも私が 普段乗っている民生用の乗用車に近い設計だからなのか、比較的乗り心地はよかったです。「比較的」ね。

 また、これらの車輌は小型なだけあってほかの人との乗り合いではなく私一人での単独乗車でだったので、 軽走行機動車に乗った時は天井から頭を出し、「自分はっ! チョッパー司令官であります!」などと、 ONEPIECEのトニー・トニー・チョッパーのモノマネを頭の中でイメージしながら乗車したのでした。


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 時間はこの時点で14時を回っていました。

 最終的なタイムリミットは15時ですが、体験乗車のリミットは14時30分。今から並べば間に合うかな? と 思いましたが、まだまだ見ていない展示物がいっぱいありました。とりあえず近くにあった静態保存中の旧式兵器 (なつかしの61式戦車など)の写真を撮りつつ考えた作戦は、

 「時間制限ギリギリに滑り込みで並んで、何とか乗せてもらおう」

 ということになりました。みんなが我先にと行くのなら、そういった人たちがいなくなってから乗ればいい。 そういうことなのです。

 そうとなったら一分一秒が惜しい状況。大型の野砲やロケット弾の発射装置を背負ったトラックの写真を バシバシ撮影しながら、近くの体育館で展示されていた岩手駐屯地の歴史と1年を通じて行われたイベントの数々を 写真で追う企画展を眺め、無料配布されていたポストカードを片っ端からいただき(全4枚)、さらに別な建物で 催されていた美術展を見ました。

 15年前はなかったか、それともこっちまで来なかったかわかりませんが、美術展が行われていた場所はとても きれいで新しい雰囲気の場所でした。中にはトレーニングルームやプールのほかに休憩室などがあり、おそらく 隊員の人たちはこういうところでトレーニングやリフレッシュをはかっているのだろうな、というイメージの 場所でした。

 もちろん今日は私たち民間人を迎え入れてお祭りが行われる会場ですからね。隊員の人たちが作った手工芸品や 陶器、絵画、写真などが飾られていました。

 印象的だったのは、大体次の3点です。

 1.砲身の下にカメラを置き、リモート操作によって撮影された「砲弾が発射された瞬間」の写真。これ なんかは絶対に民間人には撮れない写真でしょう。

 2.廃材を利用して作った帆船模型『日本丸』。6ヵ月かかって作成されたそうです。廃材を利用して……とは いうものの、美しいとしか言いようがないくらいすばらしいできでした。何度も何度も眺めました。

 3.初音ミクの肖像画。……ってコラッ! なんでいきなりこんなものがあるんだ! と思わずすっ転びそうに なったイラスト。しかも別な人が色違い(桜ミク)のイラストを出展していた。いやはや……面白いものです。

 そんなこんなで文化的にもおなかいっぱいになったところで、時計を見ると……14時20分。「そろそろ 戦車の体験乗車受付、締め切りますよー」と隊員の方が拡声器で周知しているところにあわてて駆けつけて、 何とか滑り込みセーフ。しかも待ち時間ほとんどナシ状態で乗ることができました。これは思いがけずラッキー な出来事でした。


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 74式戦車。今でこそ90式、さらに10式といった新型戦車が登場し、順次退役が進んでいるそうですが、 とりあえず岩手駐屯地のそれはまだまだ元気です。まず自分自身の重さが何十トンもあるのに、そこに人間を 20人ばかり乗せて、それでも豪快にズゴゴゴゴ! と爆走する姿は、蒸気機関車と並んで非常に感銘を受けます。 細かい理屈はいりません。「でかくて重いものが、ものすごい力で動いている」それだけでいいのです。

 そんな戦車の背中に乗れる。まさに今日と言う日のクライマックスです。はやる気持ちを抑えて体験乗車用の かごに立ち、発進の時を待つ私。

 やがて足元のディーゼルエンジンがゴオオン! と咆哮を上げ、脇にあるマフラーが煙を吐き出します。 そして「発進しまーす」という隊員さんの声を合図に、ついに動き出しました。出撃!

 (ただいま乗車中……しばらくお待ちください……)

 地面に降りてもなお、さっきまでの振動が足の裏から伝わってくるような気がしました。「すごい迫力だった」 とにかくその言葉につきます。

 今こうして記事を書きながら冷静に思い返してみると、それはたぶん、エンジンそれ自体の振動と悪路を キャタピラで踏み越える時の振動の両方があったのかな、ということかもしれません。とにかくがったんがったん、 ごっとんごっとん。さらに時々、どういう原因でそうなるのか理解できないような横方向への力が働くものですから、 とにかくそばにあるサクをしっかり握り締め、足元にも力を入れて踏ん張っていました。

 先ほども書きましたが、やっぱりかくも大きくて重いものが、かくもパワフルにズゴゴゴ! と駆け回るのって スゴイ。理屈ではなくて直感として、そう感じさせるだけのパワーがあると思うのです。


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 そういうわけで最大目的である「戦車に乗る」というのを果たした私。この時点でまだ15時のタイムリミット まで少々余裕があったので、残り時間で各部隊の建物を眺めました。

 そうしているうちに、この十数年で色々と考えが変わったな、と思いました。

 それは私が年齢を重ねて社会人になり、自衛隊の人たちを何かしらの形で支えられるようになったから、 かもしれません。……たぶん、どこかで、支えているんじゃないかなあ……と思うんですよね。社会人として 私も仕事してるから。

 私には戦車を運転することはできませんし、ライフルを撃つこともできません(視力も悪いし)。でも、 逆に私にしかできないこともあると思うんです。だから、

 「おれも頑張ります。だから皆さんも頑張ってください」

 そういうことを、堂々と言えるようになったのです。私自身の気持ちとして。


 検問のところにいた隊員の方は、帰りもまたビチッと! 敬礼をしてくれました。私は敬礼ができないので、 ちょっとだけ会釈をしました。

 明日からも隊員の人たちは全力で訓練を頑張るだろうから、私も全力で仕事に取り組もう。それが今日、私を 迎え入れてくれた隊員の皆さんへの誠意だから。

 なんだかよくわかりませんが、そんな風に思ったのでした。


 おまけ


 時間がないながらも、やはり何かしら記念品を買って帰らなければ気がすまない亡者のごとき犬神。今回も 急ぎ足で仮設テントの並ぶ物販コーナーを眺め、さらに駐屯地内にある売店に行き、大慌てでオミヤゲを選んで 買いました。なお今回のイベントは家族には秘密で来ているので、完全に自分のためのオミヤゲです。

 そうなれば、犬神がまず求めるのは……そう、不必要にモエモエした美少女のグッズです。

 正直、自衛隊のマスコットキャラは『ピクルスくん』と『パセリちゃん』がいればいいんです。鳥取かどこかの 自衛隊で新たにモエモエした美少女キャラが制式採用されたとかというニュースを聞きましたが、そこに関しては 譲りません。

 そんな私なので、不必要にモエモエしたグッズがあると、なんか落ち着かないんですよね。だから私の知らない 何かがあったら、あわてて回収してしまいます。

 今回私が回収したのは『自衛隊三姉妹』とかいう女の子の、缶入りのパン。長女、次女、三女それぞれがソロで ラベルを飾っているものと、3人まとめてラベルを飾っているもので、合計4種類ありまして。1つ500円 でしたが、これとこれとこれ! って感じで次々とレジカウンターの上に乗せて、いっぺんに買いました。

 もちろんこれだけでは少々何なので、まじめな? グッズも買いました。

 ひとつは英語ばっかり書いている、たぶん輸入物と思われる防水メモ。All weather memoriseとかって書いて いるので、今度大雨の日を選んで何かしらメモを書いてみたいと思います。

 そしてもうひとつは、陸上自衛隊員向けの身分証入れ。警察手帳とかと同じように、黒の地に金文字で『陸上 自衛隊』と書いていて、台紙には『陸上自衛隊員用』と書いてあります。そうすると今から13年前、視力の 問題があって受験資格さえ得られなかった私が使うわけには行かないのかもしれませんが、でも使います。

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