きらめく水面、吹き抜ける風

 ――2007年12月11日 イギリス海岸を行く



 折からの原油高にともなうガソリン小売価格の値上げ、および様々な所用、モチベーションの低下、等々……理由を挙げればきりがありませんが、ともかくここ最近、私はすっかり出不精になっていました。



 自宅にあってもまあ、それなりに気安く過ごせるのですが、やはりどこかへ出てみたい。知らない町を歩いてみたい。歩くよりは車で移動する時間がはるかに長いのですが、ともかく少し遠出をしてみたい。



 ついでに言うと、このところすっかりさび付いているカメラを動かしてみたい。さび付いていると言ってもあくまで比喩的表現ではあるのですが、写真を撮るということが私の精神的な活力の源泉となっているのも事実ですし、とにかく理由をつけて私は家を飛び出し、じつに数十キロからの距離を南下、花巻市はイギリス海岸へと来ていました。





 このイギリス海岸というのは、かの宮沢賢治先生が名づけたもので、水が引いた時に現れる泥岩層がイギリスのドーヴァー海岸そっくりなそうで、そこからイギリス海岸という名前をつけたのだそうです。恥ずかしながら私はその「イギリス海岸」という名称こそ知っていたものの、どこがイギリスで海岸なんでぇ、と思っていた次第でございまして、やはり百聞は何とやらと言うやつですね。

 

 一応は川沿いにちょっとした施設や休憩所なんかもあることはあるのですが、やはりシーズンオフと言うこともあって、そういった施設はすべて閉鎖されておりました。春から秋がシーズンなようで、駐車場には私の車以外、最初から最後まで一台もありませんでした。せいぜい、川近くの車椅子プレイスに数台、釣り客が車を止めていただけでしょうか。



 とりあえず車をとめ、ごちゃごちゃと荷物(ほとんど本)をかばんに詰め込み、一方で久々に動かした私の愛機α−sweetにもフイルムを詰め込む。カシャキュイーン。といってフイルムをカメラが巻き込み、準備をする。いい音です。

 

 そしてBGMは、いつものように「信長の野望 覇王伝」。そう、新居昭乃とか上野洋子とかリチャード・D・ジェイムズとかでもよさそうなもんですが、やはり「覇王伝」が最高なのです。ええ、私は信者ですから。





 とりあえず、きらきら光る水面に感動し、即座にシャッターをパチリ。そのあとは橋を渡り、フラフラと遊歩道を歩き続けました。



 とりあえず入り口に据え付けられた案内看板によれば、季節が季節ならここいらは桜並木が綺麗なそうですが、あいにくさま、12月のこの季節では葉をつけている木はせいぜい松ぐらいで、あとは全部ハダカになっていました。一応、柿の木もありましたが熟しすぎて黒ずんでいるカラスの餌は少々グロテスクなので、あえて写真に撮ることはしませんでした。



 一応、遊歩道の端っこ近くまで歩き、終点付近に行こうとはしたものの、何やらカップルがいたので視界に入る前にくるりと方向転換、元来た道を戻り、途中のベンチで一休み。ここぞとばかりにかばんの中の本をごそごそ……。





 ここでご説明させていただきますが、この犬神、漫画を読むにもいちいちシチュエーションを立ててやらなければならず、「最高の場面で最高の漫画を味わいたい」という、ある意味魯山人のようなこだわり(というか病気……魯山人信者の方、そんなに本気で怒らないでください)を持つ男なので、こういう「いいところ」で「いい漫画」を、特に「ARIA」なんかを読みたいと思うわけですね。



 とりあえず今日は読みかけの「少年チャンピオン」と、買ったばかりの「きらりん☆レボリューション」と、読みかけの「ARIA」があったのですが、やっぱりこういう時はこれだろう、ということで「ARIA」第6巻を読みました。



 そうしたところ、タイムリーなことに、この6巻には「銀河鉄道の夜」の話が出てるじゃないですか。しかもちゃんと「宮澤賢治の」と言ってくれているし。



 それ、ここですよ、ここ。この場所で生まれた、物語なんですよ。



 宮澤賢治の詩碑を背中に、銀河鉄道が生まれた場所で、その話を読む。ずっと、遠い世界の人だと思っていた主人公・水無灯里が急に私とつながりのある人物に思えるようになって、とても気持ちよくなってしまいました。



 夢中で第6巻を最後まで読み終え、耳元から聞こえる曲はエンディングテーマ「暁鐘」の後半から「ほうき星」へ。その気持ちよさのまま、私はたくさんの本が詰め込まれたかばんを枕にごろりとベンチの上に仰向けに寝転がりました。



 眼を閉じれば、そこに広がる世界。――宇宙。

 

 流れ星。満天星。そこを駆け上がる軽便鉄道。



 …………



 …………



 …………



 そこで無粋な釣り人という人種の雑音が入らなければ、そのまま私の精神はつかの間のトリップをできたかもしれません。あいにくと汚らわしい人種の雑音が入り、私は結局、現実世界から完全に脱け出すことができないまま、しかしながら一生懸命に夢想しながら「臥龍〜リプライズ」まで聞き、その後は「武将風雲録」を「甲斐の虎 上の巻」あたりから聞き始め、立ち入り禁止の展望台なんかに無断進入しながら写真を撮り、ホクホクな気持ちで帰って来た次第です。





 現在「ハイニッカ」などを飲みながら、半ば酔っ払った頭で思い出しつつこの小文を書いているのですが、本当にそのことを思うとおいしくお酒も飲めます。そのため、ともすればこの文章も私の精神的な肴として、今後もおいしくお酒を飲むために書いている……という部分も、否定はできません。



 しかしながら、それと同時に、私以外の誰かがこれをご覧になり、地元の方ないしは一度行ったことある方が「あーそうそう、いいんだよねあそこはね」とか「いやいや、おれはこんな風に思ったがね」とモニタの前でひとりごちたり、はたまた一度も行ったことのない方が「ほう、それじゃ行ってみようかね」と言って実際に足を運んだり、遠方で実際にお越しになれないとすれば「どれどれ、どんなところなのかな」とgoogleで「イギリス海岸 岩手」とかと検索したり。



 ひょっとすると、そういうことも、あるのかもしれない。



 などとありえぬ期待、空想もしてみるのです。――もちろんそれは過ぎた願いであり、とりあえず私自身が感じた「ちょっといい気持ち」をできるだけ活字にとどめられれば、それで目的の大半は達成されたようなものなのですが。





 ともあれ、今回の小旅行は、思いのほか「よかったのかな」と思います。



 私も岩手県民として、宮澤賢治先生はとても好きです。そして「ARIA」も好きなので、その大好きなふたつの物語が、この花巻の地でクロスオーバーしたような感じがしました。そしてその、クロスオーバーしたところに、私が立っている。これは楽しみも2倍2倍であり、こいつ酔っ払って頭おかしくなってんじゃねぇか? と思っておられる方もあるかもしれませんが、そうではなく、素直にそう思うのです。



 要は「好きな人に自分が好きなものを好きだって言ってもらうと、たまらなくうれしい」というオタク心理であり、これは大槻ケンヂ氏も言っていたので間違いないのだと思います。



 少々、話がわき道にそれましたが、ともあれ今日はそのようにして出かけてきました。季節柄、今出かけても見所は特別にありませんが、私の「こころの故郷」のひとつには違いなく、だったらとりあえず一冊でもいいから本を読め! と自分を戒めつつ、無理やりに締めくくらせていただきます(詩集の一部、ないしはおおよそのあらすじしか知らないんですよ、こいつめは)。



 なお、花巻はやはり宮澤賢治先生生誕の地と言うこともあり、今後も何かあったらちょっとした見聞記を書きたいと思っておりますので、よろしくお願いします。



 おまけ



 帰り道、「スーパーセンター紫波」というショッピングモールに寄りました。場所は4号線沿いで、仙台方面から来ると寄りやすいと思います。



 数年前に寄った時に「ターボアウトラン」とか「レールチェイス」とかが稼動していたゲームコーナーなので、「恐らく今は中途半端に新しいゲームばかりあって……もしかしたらゲームコーナー自体、なくなってるんだろうな、ヘッ」などと、まあ随分とすれっからした気持ちで行ったところ、あろうことか今では重要文化財にも等しい「ピンボールマシン」がっ!!



 もちろん、早速プレイしました。



 フィールドにちょっとボールがとどまることこそあれ、基本的にプレイに支障はなく、しっかりと楽しませていただきました。あとは「スタントタイフーン」(タイトー)とか、名前は失念しましたがSNKの「すごいバイオハザードまたはハウスオブザデッド」のようなガンシューティング(ビーストなんとか?)とか、ビデオゲーム系では「バトライダー」などがありました。



 本来はお酒を買いに寄ったのですが、思わぬ出物でこれまたうれしくなりました。一応、機種はバリー bally社製の「アダムスファミリー adams family」でした。もしかすると、こうしていればピンボールで検索してくれた方が見てくれるかもしれないので……。



で、結局、目的のお酒「ハイニッカ」はありませんでした。一応、1.4リットルの巨大な瓶で買ったので、当面は大丈夫かなとは思いますが……どなたか盛岡近郊でこのお酒売ってるお店教えてください。



 どちらかというと「ブラックニッカ」の方が好きなのですが、これほどまでにスイスイ飲めるウイスキーはありません。ニッカウヰスキーの方には申し訳ありませんが「クリアブレンド」よりもむしろこちらの方が「クセのない、毎晩でも飲める」ウイスキーです。なるほど、創業者・竹鶴政孝氏が毎晩飲んでいただけのことはあります……。ふうー。うまい。




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