最終章 「アディオス、アミーゴ」






 ここに来て福野礼一郎さんの「自動車ロン」を買いました。セリカXXがいかにインチキな車であり、いかにしてチューンしていったかという話が載っている本です。文体は口語体と謎の関西弁が入り乱れたけっこー荒っぽい語り口ですが、ベースは福野さんの持論「クルマは物理で動いている」なので、安心して読めます。そう、センスがあるとかないとかじゃなく、長さ高さ重さで車のスペックは決まるんです。

 そして、乗った時の印象というのは乗った人によって変わります。「重い」というか「軽い」というか。「速い」というか「遅い」というか。一般的に車のインプレッションというのは、その印象をツラツラと並べたものであり、私も含めて素人がブログやツイッターやSNSなどで語るのはそれを5段階10段階ランクダウンさせたものですからね。

 だから、どんな車であろうと、その人が好きならいい車なんです。ファミリアS-ワゴン、いい車です。4WDでATで排気量控えめで可変バルタイもないけど、私は大好きです。以上!



 ということで終わらせられれば話は早いんですが、せっかく福野さんの本を読んだので、そういった部分から「どうして、いい車なのか」ということを少し書き出していこうと思います。

まず、ボディの大きさ。これは同クラスの代表的な車であるインプレッサの4410mmに対してS−ワゴンは4250mmと、若干ショートです。その割にホイールベースは長い(インプレッサ2530mm/S-ワゴン2610mm)です。前後のトレッドは大体同じなので省きますが、運動性と安定性を表すホイールベース・トレッド比はS−ワゴンの方が若干大きくなります。

もちろんどちらも基準値(1.6―この値よりも小さくなると運動性重視といわれる)よりは大きく、安定性重視であることには変わりありませんが、S−ワゴンは安定性があり、取り回しがいいわりに居住スペースも広いのです。人が5人乗れて荷物もたくさん積める。実用車としては便利この上ありません。


 駆動方式については、一応どちらもFFと4WDがあります。私のファミ子は4WDなので、その前提で話を進めます。

 4WDにATの組み合わせというのは、不利なものです。エンジンの回転をいくつものギアを経て伝わるわけですから、単純に物理的なロスが増えます。メカが増えるから重量も増します。だけどエンジンはDOHCとはいえターボも可変バルタイもない1.5Lのエンジンなので、「遅い」というなら「ええ、そうですね」としか言えません。上り坂ではちょっともたつきます。「ファミ子は精いっぱい頑張ってるけど、苦しそうだなあ。重たいからなあ。仕方がないよなあ」そういう感じです。それは動かしがたい事実です。

 そういうのが嫌だというのなら、それは仕方がありません。レガシィでもインプレッサでも乗ればよろしい。ただしこの国は信号もあるし一時停止ポイントもあるし、横断歩道を渡ろうとする人がいれば止まってあげなきゃいけません。速度規制だって30キロ40キロ50キロとあるし、特に規制標識がなくても下道は60キロです。もちろんパワーに余裕があれば、それに越したことはないとは思いますが、110馬力でもそんなに不便を感じたことはありません。ちょっと踏み込めば70キロ80キロくらいまで余裕で出るし、本気の本気で踏み込めば160キロくらい出ますから。

 逆にパワーが控えめなせいか、運転はとてもイージーです。分厚いシャーベット状の積雪路(※)でもグイグイ直進するし、ハンドリングは適度な重さがあるし、先述したボディの大きさも相まって、非常に安定して車を走らせることができます。すなわち、疲れにくいんですよね。

 (※ 積もった雪が中途半端に溶け、トラック・バスなどが何台も通って踏み固められた道路は、とにかく走りづらいんですよね。以前、軽自動車に乗っていたころはしょっちゅうハンドルを取られて微調整を繰り返していたので)


 思い出に残るのは、2年前に青森県十和田市から新潟空港までの超ロングドライブを無事に走り切ったこと。行きは東北自動車道を、帰りは日本海側をずっと北上。それぞれ高速・長時間走行でありましたが、車の方には何のトラブルもなく完了することができました。ついでに運転者たる私の方も、もちろん完全無休憩というわけではありませんが、終始安心感の中で運転することができました。

f  そうでなくても、実家と職場の間は150キロほど離れています。そこを月に数度行ったり来たりしなければいけませんし、休みの日となればあっちこっちに出掛けます。この季節であれば積雪圧雪凍結路とバッドコンディションな状況が多々ありますが、それでもファミ子に乗っていてヒヤリとするようなことは一度もありませんでした。

 パワー不足を笑うのなら、笑えばいいですよ。ただ、6年間で10万キロ以上走り続けて、大きな事故もトラブルも不満もなく、ここまで来た。その信頼性は特筆するべきことであると私は思っています。



 ファミリアの名前の由来は「家族そろってドライブを」という願いが込められたものであるといいます(公式サイト「ファミリア物語」より)。

 6年10万キロ。そのうち9万キロ以上は私一人で乗って走ったような気がしますが、実際に家族を乗せて走ることもよくありました。両親兄弟祖父母、そして、人生36年目にして初めて迎え入れた「新しい家族」……。そういった大切な人々を乗せて、安心感のもとアチコチに行くことができた記憶は、これからもずっと忘れることはないでしょう。そのことはこうしてホームページにも残しておきたいと思います。

 この後ファミ子はどうなるのか。前後のバンパーは傷ついているし側面もちょっとへこみがあるしフロントガラスには飛び石がぶつかって傷ついているし走行距離19万キロだし左後ろのサスペンションもヘタってるし排気量1.5Lだし可変バルタイもないし……
 
 ……要するに私のような特殊なメンタリティの持ち主でもない限り需要がないだろうと思うんですよね。誰よりもファミ子のことを知る私が、思い切りひいき目に見てもそう言わざるを得ないんだから、プロの車屋さんがわざわざ直してプライスタグを付けたりするとは考えられません。

 たぶん、廃車。

 恐らく、解体所に山積み。

 きっと、使えそうな部品、片っ端からはぎとられて。


 ……と、まあ情に流せば最上川、車は機械でありコストを無限にかければ半永久的に乗り続けることができるでしょうが、私がかけられるコストは有限です。30万とか40万とかコストを投じるのなら、より年式が新しいものに乗り換えるのが現実的でしょう。


 さようなら、ファミ子。

 そして、ありがとう。

 6年間、色々なことを考えさせてくれたファミ子。教えてくれたファミ子。道具として、パートナーとして、散々乗り回して傷つけては来たけれど、最高の車です。


 大事なことなので二度言います。
 

 ZOOM-ZOOM以前のマツダの屋台骨として支えてきたファミリアの最終形。

最 高 の 車 で す 。
 

 アディオス。アスタラビスタ。
 
 
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